私の見ている世界

子供たちが成人して、愛犬たちとメダカたちに夢中。傍らで綴った小説は、来春電子書籍化されます

親に思うこと

久しぶりに父の話をします。以前一度だけ掲載しましたが、父は末期の腎不全を患い、終末期医療の病院に入院しています。

 

今年の夏に連続で二回意識が飛び、『覚悟しておいてください、会わせたい人は今のうちに会わせてください』という連絡を受け、兄と私、四人の子供たちと、父の妹を順に面会に連れて行きました。コロナ禍で、病院ロビーと病室とのリモート面会しかできない時期に、私たちは、父の体力を考慮しながら数週間かけて二人ずつ直接対面の面会をしました。

長い夏が終わり、ほんの少しの秋を経て、今年もあと一か月を切り、父は未だちゃんと生きています。

 

暫くリモート面会が中断していた病院から、11月から再開の連絡が来たので早速申し込みをするも、予約でいっぱい。どこの家族も皆、待ち焦がれていたのでしょう。

漸く取れたのは、12月27日です。まだ少し先の話。リモート面会と言えども病院内に入るため、一回の面会で入れるのは二人まで。私は父が最も可愛がり気に留めていた末っ子と行く予定にしています。

 

リモート面会まであと二十日の本日16時、兄から連絡がありました。

「今夜が危ないかもしれない」と。兄も、病院からの連絡のみで直接会えないままです。過去を振り返ってもしょうがないことですが、こんな時、コロナ以前ならすぐさま病院へ駆けつけて、傍についていてあげられるのに、今は院内に入ることもできません。

 

私はふと思いました。『父はコロナ禍を理解しているのだろうか』と。

 

私たちを産んでから、母は心臓弁膜症で入退院を繰り返し、父は三十五歳の若さで、仕事と家事と育児と看病を続けてきました。多くの人が手を差し伸べて下さいましたが、父の苦労は計り知れないものだったろうと、自分が親になって思います。とても献身的で忍耐力のある人だと、最も尊敬する人。

私たち兄妹が幼いころに、母を亡くした父の一日は早く始まります。毎朝5時に起き、一番初めに母の仏壇にお水と炊き立てご飯とお線香を供えて両手を合わせる。私たちの朝食を作り、洗濯を済ませ、仕事へ。そんな父を見てきました。

何度も再婚を勧める父の兄弟姉妹をよそに、父は一度も再婚することなく私たち兄妹を、男手一つで育ててくれました。私が出産した後にも、母親が居なくてもつらい思いはさせないと言い、産後の身を案じて不自由のないよう私と孫の世話をしてくれました。嫁ぎ先の旅館が忙しいときは、子守のために泊りがけで来てくれました。春休み、夏休み、冬休みは、四人の孫たちを実家で引き取ってくれました。私や孫に何かあれば、一目散にやってきました。もちろん子守は父一人です。

私も子供も、そんな父の愛情をたっぷりと浴びて育ってきたと思っています。もしも父がいてくれなかったら、私はこんなにノビノビと子育てをできていなかったでしょう。

 

それなのに、今、父は人生の終末期に一人です。病院には、献身的に診て下さる看護師さんもお医者様もいらっしゃいますが、父がこれまでわが身を削り愛情を注いできた母も息子も娘も孫も傍にいません。

コロナ以前、末っ子は二日おきに、私は週に一回、他の子供たちは二から三週間おきに面会をしていましたし、父の誕生日、父の日、敬老の日、イベントなど、とにかくよく会いに行きました。

少しだけ認知症が出ていた父は、もしかすると『コロナで面会ができない』ことを理解しておらず、今こんなにも会いに行かない私たちを『薄情な奴だ』と思っているのかも知れません。すごくがっかりしているのかも知れません。そんな風に思ったまま送ることだけは嫌です。愛情をかけてもらった以上の愛情を父に届けたい。そう考えていたら、とても悲しい気持ちになりました。

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八十歳の誕生日に私が贈った眼鏡を大事に使っていた父。以前看護師の方が誤って折ってしまい、新しいものと交換しました。看護師さんは、眼鏡代金を支払ってくださったのですが、私はその時、ひどく父に叱られました。

「形あるものは壊れるもんだ、わざと壊したわけじゃない看護師さんを責めてはダメだ。この人はお前たちよりもよく面倒を見てくれるんだ。ありがたいね、感謝しないと。」

もちろん私は看護師さんを責めてはいませんが、父はこの言葉通りに生きている人でした。

あの時引き取ったお気に入りの壊れた眼鏡、母が寂しくないように寝室にある母の遺影の傍に置いてあります。だからもう少し、父を連れて行くのはもう少しだけあとにしてほしい。せめて対面の面会ができるまで、もう少しだけ長生きをさせてほしい。

貰った愛情の何倍もの愛情で、父をこの手で看取ることができる時まで、長生きをさせてください。